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日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.84 「源氏物語」


 Bunkamuraオーチャードホールで、日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.84「源氏物語」を観た。


 Bunkamuraのホームページによると、本作は、コリン・グレアム台本、三木稔作曲により2000年アメリカのセントルイス・オペラ劇場で世界初演され、翌2001年に日本に招聘されて日生劇場日本初演(英語版上演)。今回は日本語による諸縁となる。

 素晴らしかった。
 オペラは、西洋のもの、という感覚があったが、今回の「源氏物語」は、まさに、日本人が作り、日本人が演じた、日本人の感情の機微もうまく表現した日本人が満足する最高のオペラだった。
 公演プログラムに書かれていた演出家、岩田達宗さんの文章を引用しよう。
 「光源氏はまかり間違えても関係した女性たちをカタログに書き溜めるようなスペイン貴族のプレイボーイとは違う。紫式部による原作にもある通りに、彼は関わった女性たちをひとりとして最後まで見捨てはしない。六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)の戒めを破って、新たな悲しみを背負い、自らの心の闇がさらに広がることを代償にしてでも、女性たちの心の闇と泣き声に寄り添い続ける」
「このオペラの主人公は劇中、自分のような心の闇を抱えた罪深い男は一刻も早く忘却の彼方に消え去るべきだ、と自らを責める。しかし千年の時を超えて人々に愛されて、忘れられることのなかったのは彼だった、とこのオペラは語る。千年の時を超えて消え去ることなく人々の記憶に生き続ける名前は、帝の名でもなく、時の権力者の名前でもない。社会から虐げられた者、夢を奪われた者、陽の光を奪われた者、としての女性たちの心に寄り添い続けた『光源氏』という男の名前だった」
 光源氏皇位継承権を持つ身ながら、父の意志で皇室から除外される。でも、どこかの国の王位継承者の弟のように、「俺はスペアだ」などといじけたりもしない。極めて温かい、憎めないやつなのだ。そんな主人公像を描く原作も素晴らしいが、それを日本人が演じることで、心の通った「源氏物語」になっていた。光源氏の複雑な感情はオペラの楽曲によって見事に増幅されていた。
 実は私は源氏物語を読んだことがない。事前に予習もしなかったため、第十六場あるうちの前半、第八場までは、ストーリー展開や源氏物語の人間関係が飲み込めず、「ちゃんと源氏物語を読まなければいけないな」「楽器の音色が何を表現しているのか、聴き分ける力もなく、オペラを鑑賞する能力に欠けるな」と反省しきりだった。
 ところが第九場。弘徽殿(桐壺帝の妃、朱雀帝の母)が出てきたあたりから、ストーリー展開がわかりやすくなり、どんどん面白くなってきた。
 このオペラに登場する女性のほとんどは光源氏の恋人ばかり。ソプラノで愛を語るのだが、弘徽殿は、「源氏追放!」「娼婦の息子!」と厳しく非難するのだ。こうした言葉を歌で表現する力量もすごい。演じたのは、知人の松原広美さん。大いに盛り上がった。
 その後、光源氏流罪になり、明石に出会う。やがて赦免され都に戻り藤壺の死に直面する。話がわかりやすく、展開も速くなり、フィナーレで最高潮に達した。
 高いお金を払って外国のオペラを観劇するのもいいが、和製オペラがもっと上演されたら、と思う。日本人の役者によって源氏物語の海外公演が行われたら、オペラ「源氏物語」の評価はさらに高まるのではないか。