好き!→LINEブログの残骸(2021.12~2023.3)

僕の好きなもの、好きなこと。好きってなんだ?

映画「SHE SAID」

 数々の名作を手がけた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・性的暴行事件を調査、報道したNYタイムズ紙の二人の女性記者に焦点を当てた映画「SHE SAID」を観た。
 この記事が出た後、世界各国でセクハラ被害を告白する女性たちが現れた。この#Me Too運動はよく知られている。
 二人の記者たちのドラマは、まるでノンフィクションのように描かれていた。記事にするための決め手に欠き、焦燥感が漂っていた時に、実名を出して証言してもいいと、女性から電話があった。二人の記者が歓喜する場面。私も思わず涙してしまった。
 記者二人は取材を進めていくが、示談で口を封じられた被害女性たちの心はなかなか開かず、取材は困難を極める。それでも被害女性たちにメールを送り、電話をし、直接会い、事件について語ってくれる女性たちがぽつりぽつりと出始める。
 二人の女性記者のプライベートな姿が描き出される半面、ワインスタインのセクハラ、性的暴行は映像では描かれず(そんな映像は存在しないのだから、描かない方がリアリティがある)、被害者たちの証言を聞いて私たちもセクハラの下劣さが次第に見えてくる。
 考えてみれば、二人の記者の取材現場と新聞社での上司とのやり取り、そして「帰宅してから」を描くだけの、ある面地味な映画なのだが、それがかえって彼女たちの取材の臨場感を増していった。
 記事を電子版で公開し、印刷に回す瞬間は、私の記者時代を思い出させてくれる光景だった。一つの記事は、社内の何人もが目を通して、これで大丈夫、間違いはないと皆で何度も確認してから世に出す。
 これほどのスクープ記事でなくても、記者が真実を書くために取材を重ね、校了までたどり着くところは一緒だ。記者は単なる「ライター」ではなく、テーマを決め、取材先を決めて、使命を感じなら取材し、取材相手には記事の趣旨を理解してもらい、本音の話をしてもらう。そして、だんだん真実に近づいていく。取材の醍醐味、面白さを思い出す。
 新聞記者として生きてきたことに悔いはなく、そこで学んできたことを伝えたい。その思いを強くしてくれる素敵な映画だった。